ご挨拶

分子生物学的な進歩により、うつ病や認知症の病態についてはこれまで多くの知見が出され、それに伴う治療法も発展してきました。例えば、うつ病では「モノアミン仮説」が提唱され、それに基づく抗うつ薬の開発は多くの恩恵をもたらしました。また、アルツハイマー病では「アミロイド仮説」が提唱され、アミロイドワクチン療法やアミロイド切断酵素阻害薬などが開発され、アルツハイマー病の根治療法も夢ではない状況になっています。しかし、これらの仮説に則った治療法にも限界があることも示されるようになってきています。すなわち、抗うつ薬治療抵抗性のうつ病が多く存在する事実や、アミロイドに対する治療薬の治験が多く失敗に終わっている事実が存在します。

従って、うつ病や認知症の病態解明に対して、パラダイムシフトが求められています。

私たちは、認知症およびうつ病の病態を、細胞小器官である小胞体の機能という観点から検討してきました。小胞体では蛋白質の折り畳みや修飾を行われているわけですが、様々な細胞内外の環境により、不正蛋白(unfolded protein)が小胞体内に蓄積していきます。これを小胞体ストレスと言いますが、この状態をそのままにはできないので、恒常性を保つ反応すなわち「蛋白の品質管理」を行う機構が存在します(これをunfolded protein response: UPRと言います)。私たちのこれまでの検討で、アルツハイマー病の病態にこの品質管理機構の破綻が関与していることを示しました(Nat Cell Biolog, 8, 479-485, 1999)( J Biol Chem. 276(46)43446-43454, 2001)。また、うつ病や統合失調症に於いてもこの品質管理機構が低下している可能性を示しています(Biochem Biophys Res Commun. 415(3):519-525 2011)。さらに、不正蛋白の折り畳みを是正するシャペロン蛋白を誘導する薬物を発見し、この品質管理機構を補助するような治療法の提案をしています(Cell Death Differ 15: 364?375, 2008)。

また、薬物療法に偏りがちな現代の精神療法のパラダイムシフトとして、私たちは精神療法の科学的な検証も行っています。具体的には、認知行動療法の効果について生物学的な検証を行い、「心の品質管理」法としての確立を目指しています。

さらには、「心の品質管理」を睡眠という視点から検討しています。即ち、認知症やせん妄と睡眠関連疾患の関係について生理学的あるいは分子生物学的にアプローチしています。

このように、私たちは従来と違った「蛋白からこころの品質管理」という視点から、うつ病などの精神疾患の病態解明や予防法の検討を行っていきます。私たちといっしょに精神疾患研究のパラダイムシフトをやりましょう。

社会人大学院生も歓迎します。精神科医はもちろん、いかなる職種でも歓迎です。

教授 工藤 喬

↑ ページの上部へ